遺品整理屋は見た!!

创建→

更新→

天国へのお引越しのお手伝い
作者:[日]吉田 太一

閱讀中,暫未完成

【第1話】私宛の遺書

麦茶だと思って飲んだら薄いアイスコーヒーだった。そのときの驚きはちょうどそんな感じでした。まさに不意を突かれたのです。

ベッドと押し入れに足をかけ、そのロープをほどきながら私は、自分がこの仕事にすっかり慣れてしまっていることをいまさらのように実感しました。たったひとりで自殺現場にいることに対してなんの抵抗も感じていないのですから。


[コラム❶]死のとらえ方

生きた人のことを「生身の人間」などという言い方をしますが、人間は死んでも生のままです。死によって抵抗力も免疫力も失った人体は、いろいろな菌やバクテリアの格好の餌場となるのです。

確かにエンバーミングの技術はすごいのかもしれませんが、アメリカの墓地という墓地で、生前の姿のままの遺体が無数に眠っていると考えたらそれはそれでちょっと怖いものを感じます。


【第15話】開かずの冷蔵庫

孤独死ではありましたが、短時間で見つかったため部屋に入っても死臭はまったく感じませんでした。が、その代わりに感じた匂いがありました。昭和の匂いというやつです。テレビ、ラジオ、ステレオ、扇風機、冷蔵庫……どれをとっても何十年も前に製造中止になったような骨董品に近い家財道具があまり使われた形跡もなくそのまま放置してあるという感じで置かれていました。

パッケージを見る限りはカマボコのようでしたが、つかんだ感触がとても変なのです。おそるおそる袋を破って中身を見て思わず私は笑い出しそうになりました。なんとカマボコがひからびて元のサイズの十分の一くらいに縮まっていたからです。板のほうは木でできていますから縮まらないので、まるで小さくなっていくカマボコがなんとか板から離れまいとしがみついているように見えました。まさしくカマボコのミイラでした。

見た目はニスを塗ったみたいにつややかで、まるでプラスチックでできているようで、実際の硬さも板と同じくらいの硬度に変化していました。

なんだか捨てるのがとてももったいないような気もしたのですが、そのままの状態で保存できるものでもないでしょうし、保存しておいたところでどうなるものでもないと思い直し、廃棄処分ということにしましたが、それを見たときはなにか感動に近いものを感じたことを覚えています。


[コラム❸]いわくつき物件

自殺があった場合は賃貸物件ですとそのことを次の入居者に告知する義務が生じます(その次の入居者に対してはその義務はなくなります)。しかしそれが分譲マンションになると、中古物件として販売していく限り延々と告知していかなければならないのだそうです。

また、自殺のあった部屋だけに限らず、たとえば一階の部屋を販売するときでも十階できた自殺のことを伝えなければならないということになっているようです。


【第33話】孤独死の現場から母子手帳が……

主人が亡くなってもしばらく生きていたのでしょう。主人の足下のあたりに倒れていたその犬は、すっかりやせ細ってはいましたが、白いむく毛が飲屋街の屋台で売っている安物のヌイグルミのようでした。

「かわいそうに……」

犬の死骸に手を合わせたときその横に落ちていた小さなリモコンの灰色が目に飛び込んできました。

「もしかしたら、この犬がエサを探して部屋中を歩き回ってるうちに、なんかの拍子にエアコンのスイッチを踏んで冷房がかかってしまったとか……」